「わたくし、このような作品、今まで鑑賞したことはありませんでしたわ」
「ハァン? 人がせっかく貸してやった本に『このような作品』は良い度胸してるわね。腹パンされたいの?」
「パン、ですか? いいえ、わたくし、お腹は空いていません」
「マジ腹パンしたい、コイツ」
「? よく分からないのですが、誤解なさっているようです」
「あ? なにが」
「きっと『このような作品』という言い方が悪かったのですね。陳謝いたします。けなすつもりは毛頭ございませんでしたの」
「じゃ、どういうつもりでございましたのかねぇ」
「いえ、むしろ褒めるつもりだったのです」
「褒める? ハッ、お気に召したわけ?」
「えぇ。……というか、わたくしの人生ではこの『二十世紀少年』という漫画本は、前代未聞な作品でした」
「へぇ……。そりゃお安くないね」
「この作品、わたくしでも耳に挟んだことはありましたし、とても流行した作品です、のよね?」
「そうね。けっこう昔の一時期、すんげぇコマーシャル打ってたな。ありゃ実写映画化した時か……?」
「わたくしもTVのコマーシャルか何かで見たような記憶がございます。白い布にマークを付けた“トモダチ”が、……その、こう言ってはなんなのですが、とても不気味に感じたのを覚えております」
「あぁ、インパクトあるわな。あのビジュアルは」
「といっても、コマーシャルだけですと、あまりお話の内容は分かりませんでしたので、きっとホラーなのでは、と決めつけていました」
「ま、ホラー要素、なくもないかな……。つっても、幽霊じみた不条理ホラーじゃなくて、集団の空気に流されて常識無くしてく人間の狂気っつぅか、なんつぅか」
「ところがどっこい」
「あ?」
「とても上質のサスペンスで、わたくし脱帽いたしました」
「お嬢様は私の意見はガン無視なのな。いいけど」
「お話が二転三転。それに、ノスタルジックな雰囲気も、作品のリアルさを強くしていたように感じます」
「かもね。つっても、さすがにあのノスタルジーは身に覚えがねぇけど。世代的に。アンタもでしょ?」
「作中、引き起こされた事件によって、世の中が大きく変化し、それこそ時代が変わったように舞台も大きく変化するのも、スケールが大きくて……」
「おぉい。少しはリアクションをくれよ」
「登場人物の誰もに、とても人間味を感じました。結末も――」
「そこは言わなくていい」
「? そうですか?」
「つってもさァ……、私、頭悪ぃからかな」
「はい?」
「この話の終盤前くらいかなぁ、『○○? え、誰のことだっけ』みたいな混乱が起きて、話に完全に入り込めなかった所もある」
「それは頭悪いですね」
「正直すぎんだろうが。……でも、正直、そういう所もあった、と」
「そうですか……」
「ま、面白かったけどな。話題になるだけのことは――」
「あの」
「なんじゃい。まとめようとしたのに」
「あの、現実にこのお話の“トモダチ”みたいな方がいらっしゃって――」
「うん?」
「この作品のようなことは起こりうるんでしょうか?」
「あぁ……。どうだろ」
「わたくし、そこにホラーを感じました」
「そりゃさっき私が言ったんだけど……。って、まぁいいや。そうね、“トモダチ”みてぇなヤツが出てきて、ねぇ……」
「どうなるのでしょう?」
「ま、ここまで上手く話は進まねぇだろうね」
「そう、ですか?」
「少なくとも、世間から満場一致で迎えられる、みたいなことは難しいと思う。現実、宗教臭、っつうか、カルト臭に大体の日本人は敏感だからさ。だから、団体が大きくなれば拒否反応を示す連中は多いと思う」
「そうなのですか……」
「でもなぁ」
「はい?」
「でも、マジで規模が大きくなったら、案外と、反対する連中は激減するかもしれねぇ」
「そう、ですか?」
「ん。『長いものには巻かれろ』っていうかさ、“空気読む”っていうのかさ。う~ん。いや、たぶんこの“トモダチ”ほど怪しいヤツだったら、きっと拒否するヤツは多い。だけど――」
「だけど?」
「だけど、『裏表のねぇ爽やか人気者』、みてぇなやつが代表になれば、あるいは、ありえるのかもしれねぇな、とは思う」
「はぁ……」
「例えば、昔、どっかにいたワンマン演説狂独裁者とかさ、あれってやってたことは非人道的で最悪だったけど、そもそも、あの当時のあの国じゃ普通に人気者だったんだよね。っていうか、いくら演説が上手くったって、国民が支持しなきゃ単なる変人だったわけで」
「演説……? どなたでしょう」
「きっとやり方が上手かった上に、酷くハマってしまったんだろうな。あの時代に、そのやり方が。人気取りの方法っていうのかな。『優れてるオレ達が上手くいかねぇのは敵が暗躍してるからだ。だから浄化しねぇといけねぇ』みたいな、な」
「???」
「苦しい時ってさ、敵を求めちゃうんだろうね。分かりやすい悪っていうのかな。『これさえ取り除けば大丈夫、コイツさえどうにかすれば』――みたいな、本当に分かりやすいだけの『対決するべき“悪”』。あるいは、自分たちを正しく判断してくれる、分かりやすく導いてくれる強い指導者」
「……(おなかが空きました)」
「だからさ、つまり状況と条件、それとやり方しだいじゃ、きっと“トモダチ”は生まれちまうんだろうな、ってこと。ま、私の独断だけど」
「え!? と、“トモダチ”が生まれてしまうのですか? どうして!? なんでですか?!」
「……ホント、人の話きかねぇよな、アンタ。……でも、今現在の状況はちょっと危うい気はするな」
「わ、わたくし、どうしたら……ッ」
「あぁ? あぁ……。うん、まぁ、人のいうこと鵜呑みにせず、自分の頭使って生きてりゃ大丈夫なんじゃね?」
「もし仮に、トモダチワールドに連れて行かれてもですかッ!?」
「さぁね。ま、ダメなときゃダメだから。どうせ」
「だ、ダメなのですかッ?」
「そんときは諦めて、皆で枕並べて『めつ★ぼう』ってことで」
「そんな現在最先端、大流行の京都なアニメーション風に言われても、納得できません!」
「今風じゃねぇけどなぁ、全然。……以上、と」