「ときめき」っていう言葉を聞いて、“わたし”が小学校四年生の時に起きた出来事を、その時のことを思い出しながら、その時のわたしっぽく書いてみました。
読みにくかったらごめんなさい。

……っていう短編を、これまた『学園ショートショートコンテスト』なるコンテストを知って即書いてみました。いい加減にしろ。

 

 

――――――――――――――以下、本文―――――――――――――――――

 わたしがときめいた時の話は、実はお爺ちゃんと関係があります。
 でも、お爺ちゃん相手にときめいたわけじゃないです。
 ねんのため。

「もしよかったら」
 なんて言いながらお爺ちゃんが手渡してきたのは、二つのキーホルダーでした。
 二つ、っていうのはキーホルダーの中身って言うのかな……、チェーンの先に着いてる飾りが二つで、分けることも出来たみたいだけど、その時は一つになってました。
 デザインは、ぎざぎざが入ったハートの片割れみたいなヤツで、それを二つくっつけると一つのハートのできあがり、みたいな形でした。
 お爺ちゃんには悪いけど、ぶっちゃけダサいな、と思いました。
 でも、ニコニコ笑顔で渡してきたお爺ちゃんの事を考えると、それを受け取らないのも悪い気がして、わたしは「ありがとう」ってつぶやくようにお礼を言って、そのキーホルダーを誰にも見られないようにポケットに入れました。
 お爺ちゃんはわたしの「ありがとう」を聞くと、とても喜んで、病院の売店で買ったってちょっと自慢げに言ってきて、わたしは少しでも「いらない」なんて気持ちを持ってしまったことをちょっと重く感じてしまい、お爺ちゃんの顔を真っ直ぐ見られなくなってしまいました。
 それから家族みんなで病室をでると、お父さんとお母さんがむつかしい顔で「てんいが」とか「こうせいぶっしつが」なんて暗いようすで言ってて、わたしはやっぱりそうなんだ、って思いました。
 お爺ちゃんはずっと病院に入院してて、何度か家に帰ってきては、また入院するみたいな生活で、わたしもよく分からないけど、きっと良くはならないんだろうな、なんて思ってました。
 だから、余計にお爺ちゃんのくれたキーホルダーの入ってるポケットがなんだかとても重く感じてしまいした。

 家に帰って、ふくざつな気持ちでキーホルダーを取り出して、机に置いてみてみると、思ったのはやっぱりダサい、っていう気持ちです。
 わたしもそう思うんだから、きっと友達とかもそう思うよね、なんて思って、それでもお爺ちゃんの顔とか浮かんで、わたしはやりきれなくなって、机の引き出し、その奥の方にそのキーホルダーをしまい込んでしまいました。
 その日の夜ゴハンの時、お父さんが「アレ、どうした」なんて言ってきて、聞いて欲しくないな、なんて思いながら「うん、ちゃんとあるよ」とだけ答えました。
 そのあと、お母さんが「お爺ちゃんが買ってくれたんだから、大事にしなさい」って言って、わたしはとても気が重くなりました。
 その時はそれだけ。
 その後ずっと、わたしはそのキーホルダーのことを忘れて過ごしました。
 お爺ちゃんの事を誰も口にしなかったこととかも原因だと思います。
 それから何ヶ月か経ちました。
 衣替えをすませた六月が過ぎ、七月に入ったばかりのある日。
 お爺ちゃんが、お墓に入りました。
 お父さんのお父さんだったお爺ちゃんだったので、わたしもおそうしきにさんれつしました。
 お父さんが泣いているのを初めて見て、わたしはふくざつな気持ちになりました。
 おとうとがわたしに「おとうさん、なんでないてるの?」って聞いてきて、わたしはどう答えていいのか分かりませんでした。
 おそうしきにはたくさんの黒い服を着た大人の人たちが来ていて、おそうしきをした平らな建物は人でいっぱいでした。
 みんながみんな悲しそうな顔じゃなくて、このあとのこととかを真剣な顔で話してる人とか、それか「久しぶり」とか言ってる、なんだか楽しそうな人もいました。
 わたしはおとうとの手をにぎりながら、おじいちゃんの白黒写真を見て、むねが詰まりました。
 花に囲まれてるお爺ちゃんの写真をみていると、ふいにキーホルダーのことを思い出して、なんだかとても嫌な気持ちになりました。
 忘れてたわたしのことや、ベッドにねころんだままそれを渡してきた、細くて皺だらけで点滴につながれたお爺ちゃんの腕のことを思い出して、とてもとても、嫌な気持ちになりました。
 それでもやっぱり思ったのは、「だってダサいんだもん」っていう気持ちでした。
 でも、机の奥にしまったままだったことはやっぱり気持ち悪くて、私は帰ったら取り出してみよう、と思いました。
 おそうしきは昼には終わって、それからかそうばに行きました。
 それからもそもそとあんまり美味しくないご飯を食べて、わたし達は帰りました。
 明日からお父さんは出張だったのです。その用意をしないといけないってお母さんがちょっと強めに言ってました。
 それから家に入る前に塩をかけられてから、わたしは自分の部屋に戻りました。
 わたしはキーホルダーのことを考えながら、それでもやっぱり気が重くて、着替えたり、弟の世話をして時間をのばしていました。
 キーホルダーを取り出したのは、結局、夜ご飯の後、歯を磨いてベッドに入る前の事でした。
 いやいやに探してると、引き出しの奥にはちゃんとあのキーホルダーはあって、取りだしてまじまじと見てみても、やっぱりダサい。
 ハートの片方が赤で、もう片方が青なのもとんでもなくダサく感じてしまいました。
 お爺ちゃんのことを考えるといけない気持ちなんですけど、でもやっぱりダサい。
 わたしはなんだかまた机の奥に入れるのもめんどくさく感じて、机の上に置きっぱなしで布団に潜り込みました。

 次の朝、わたしがご飯を食べてると、お母さんが「あのキーホルダー付けて行きなさい」なんて言ってきました。
 わたしがびっくりしてると、お母さんは昨日私が寝た後、おそうしきで来てた服を取りに部屋に入ってきて、そのとき、キーホルダーのことを見たんだそうです。
 わたしは寝てる時に部屋に入られたことをおこりました。でも、たぶん余計なことを言ってきたお母さんに、わたしは怒ったんだと思います。
 でも、「お爺ちゃんがせっかく買ってきてくれたんだから」なんてお母さんが言って、それは確かにそうだし、今までずっと奥にしまってたっていうこともなんだか悪く思って、だから、わたしはその日だけ、学校の登校カバンにこっそりとだけど、そのキーホルダーを付けていくことにしました。
 わたしは、家がちかくの子たちとまとまって登校してるので、その日も同じように、時間が来てわたしは同じ小学校に通う子達と一緒に学校に行きました。
 心の中で、キーホルダーにだれも気がつきませんように、なんて思いながら、ヒヤヒヤしながら道を歩きました。
 登校中、カバンのポケットにもぐり込ませてたキーホルダーに、誰も気がつきませんでした。わたしはホッとしました。
 朝の学校はいつも通りで、わたしと同じくらいの子達が校門の中へと入っていきます。
 その日は、七月に入ったばかりの少しだけ暑い日で、衣替えはしっかりすませてて、みんな半袖です。
 もう少ししたら夏休みで、みんな「夏になったら海に行く」とか、「キャンプに行く」とか、「塾に一杯行かないと」なんて言ってて、いつもよりザワザワしてました。
 わたしは席について、そんな話を聞きながら、通学カバンから取りだした教科書やノートを、机の中にしまいました。
 その時、わたしはとなりの子と話してて、その子が夏にハワイに行くなんてことをいってて、ちょっとうらやましく思ってました。
 だから話につい夢中になって、隠してたキーホルダーが出てきてしまいました。
 わたしはすぐにそのキーホルダーをかくして、となりの子が「どうしたの? 今の何?」なんて聞いてきました。
 わたしが「なんでもないよ」って言っても、その子はしつこくキーホルダーのことを聞いてきて、わたしはちょっと嫌な気持ちになりました。
 わたしとそのこの話を聞いてたらしい男子が、いきなりわたしに「なんだよ、見せろよ」とからんぼうに言ってきて、しかもかなり強引にわたしのカバンを持ち上げると、かくしてたキーホルダーをみんなの前に出してしまいました。
「うわー、なんだこれ! だっせー!」と男子が大声で言って、私はたまらなくなって俯いてしまいました。となりの子も「やめなよ―」なんて言いながら、声は笑ってました。
 わたしはますます恥ずかしくなって、そして顔に火が付いたように熱く感じて、なんだか涙が出てきました。
 わたしが泣いてるのを見て、男子はますますはしゃいでキーホルダーを上に持ち上げて、「こんなだっせーのみたことあるかー!?」なんて大きな声で笑いました。
 クラスの子たちは、笑ったり、その男子へ止めるように言ってましたけど、誰一人、それを止めてくれませんでした。
 その時、
「うっせぇなぁ、馬鹿かよ」
 さわいでるのと別の男子がいきなりちょっと大きな声を出して、そのとげとげしさにうるさかった教室がちょっとしずかになりました。
 そう言った男子は、わたしの席から少しはなれた席の子で、さわいでるみんなからいつもはなれた所にいる、ちょっと怖い感じの子でした。
 今までさわいでた男子が、驚いて、でも直ぐに怒ったみたいに「なんだよ」って言って、その子の方に突っかかっていきました。
「うるせぇっつってんだよ。サル」
 その子は立ち上がって、そのさわいでた男子に立ち向かって、なんだかケンカみたいになってしまいました。
 みんながきんちょうしてると、教室のドアが開いて「ごめんね、会議が長引いて」なんて言いながら先生が入ってきました。
 教室のみんながおかしいことを先生は直ぐに気がついて、「どうしたの? みんな」なんて言ってきて、わたし達はだまってしまいました。
 さわいでた男子と、わたしのとなりにいた子とかが「なんでもないでーす」ってとぼけて答えて、先生は「そう?」なんて首をかしげて、それで終わりました。
 その時は。

 それから普通通りにじゅぎょうは始まりました。
 でも、わたしは気持ち悪くて、あまりしんけんにじゅぎょうを受けられませんでした。
 となりの子が「ごめんね」なんて言ってきて、でもなんだか気持ちがこもってないように感じて、わたしは何も答えませんでした。
 それをその子はとても怒ったらしいです。後から聞いた話ですけど。
 それから体育とか昼休みとかもあって、わたしはその日のじゅぎょうが終わる頃には、なんとか気持ちを落ち着けることが出来てました。
 全部のじゅぎょうが終わって、先生もいなくなって放課後になると、みんながわぁわぁとさわいで、教室の中は朝の時よりもずっと落ち着かなくなりました。
 わたしは、でも、これから誰かと遊びに行く気持ちにはなれなくて、直ぐ家に帰ることにしました。
 通学カバンを開けて見ると、そこにつけてあった、あのお爺ちゃんがくれた、ダサいキーホルダーがなくなってました。
 わたしは血の気が引くような気持ちがしました。
 カバンのそこまで手を入れてガサガサしても無いし、ひっくり返してばたばたさせても出てきません。
 わたしがそんなことをしてると、友達が何人かやってきて、「どうしたの?」って聞いてきました。
 わたしは「キーホルダーが無い」って答えながら、でも机の中や床の上を必死に探しました。
 友達も辺りを探してくれましたけど、でもわたしほど真剣じゃありません。わたしのだし、当たり前だけど。
 それから友達の一人が、「アレってそんなに大事なの?」ってちょっと冷たい感じできいてきました。たぶん、探すのがちょっとめんどうになったんだと思います。
 わたしはそう言われて、ちょっと言葉が出てきませんでした。
 大事か、っていわれると、そうでもない、っていうのがやっぱり本当のところです。
 やっぱりダサいし。
 でも。
 でも、お爺ちゃんが買ってくれたことや、その時の笑顔、それに花に囲まれてる写真を思い出して、わたしはとても気持ちが詰まりました。
 そして、ずっとしまってたことを、わたしは後悔しました。
 どうして、もっと大事にしてあげなかったんだろうって、キーホルダーが無くなって、そして、お爺ちゃんがいなくなってからわたしは思ったのです。
 お爺ちゃんはずっと入院してて、その病院も近かったのに、わたしはあまりお見舞いには行ってませんでした。
 色々理由をつけて、お父さんが行った時も、お母さんが誘ってきた時も、わたしは色々理由をつけて行きませんでした。
 病院のあのふんいきがわたしは嫌いでした。
 白くて片付いてて、でも薬や消毒の臭いがする、とっても明るいあの場所が、なんだか気持ち悪くて、嫌いでした。
 ベッドの上のお爺ちゃんのだす、なんだか薬のような動物のような匂いが好きじゃ無かったです。
 そのお爺ちゃんが見る度に細くしわくちゃになって、それでも笑顔でわたしに優しくしてくれて、わたしはとても気持ちが重くなったのです。
 お爺ちゃんのことは好きです。でもベッドの上のお爺ちゃんはあまり好きじゃ無かった。
 でも、お爺ちゃんはもういません。
 そのお爺ちゃんがくれたキーホルダーも、もう無くなりました。
 わたしは友達の前で泣きました。
 「大事なの?」なんて聞いてきた友達は、とても驚いて、すぐにあやまってくれました。でもわたしは涙が止まらなくて、ただ首を振ることしか出来ませんでした。

 それから落ち着いたわたしは、自分の席でぼんやりしてました。
 教室の中にはもう誰もいません。少し前に先生がやってきてて、残った子に「早く帰りなさい」って急かしたからです。
 教室の窓から、オレンジっぽい、でも明るい光がななめに差してきて、黒板の色が変わってます。わたしはそれを何とも思わずにただながめてました。
「ん」
 いきなりわたしの後ろから、誰かが声をかけてきて、わたしはびっくりしました。
 びっくりして振り向くと、朝、さわいでた男子にサルだの何だの言ってくれた、ちょっと怖そうな男子がそこに立ってました。
 ふりむいたまま固まったわたしに、その子は「ん」って言いながら、ずいっと何かを差し出してきました。
 わたしが受け取るようにてのひらを差し出すと、その子はにぎってた何かを渡してきました。
 みると、それはあのキーホルダーでした。
 でも、片方、青い色の一つだけしかありませんでした。
 わたしはもっと驚いて、「どうしたの?」って言うと、その子はただ「拾った」って言いました。
 言って、直ぐ、その子はまるで飛んでいくようにそこからいなくなってしまいました。
 でも、わたしは気になりました。
 その子は朝には無かったアザや傷を体中に作ってて、とっても痛々しかったのです。
 わたしは、なんでだろう、って思って、ふと手の中のキーホルダーの片割れ、青い欠片をながめて、なんだか気持ちがふわふわしました。
 下校中や、家に帰ってもふわふわしてて、わたしはずっとその子の傷だらけだった顔や渡してきたキーホルダー、それにお爺ちゃんのことも考えてました。

 次の日、私は昨日のように学校に行って、教室に入りました。
 教室に入って、なんだかふんいきがおかしい気がしました。
 それでも自分の席に行くと、となりの子がいきなりあやまってきて、それは昨日のキーホルダーのことだ、ってしばらく聞いてて分かりました。
 わたしがとまどってると、その子は、なんだかおびえたみたいに、「悪いと思ったから」とだけ言いました。
 わたしは「もういいよ。大丈夫」って言って、ずっとあやまられるのはちょっとめんどうな気がしたから、わたしは顔をそらしました。
 そして、教室の雰囲気がちがう理由が何となく分かりました。
 男子の何人かがアザやバンソウコウを身体に付けてて、その子達が大人しいから、教室が静かなんだと思いました。
 そして、昨日の、キーホルダーの片方を渡してきたちょっと怖い感じのあの子がいないことも、わたしは気がつきました。

 その日の昼休みに友達から聞いた話だと、あのちょっと怖い感じの子は、昨日の放課後に男子の何人かと大喧嘩したそうです。
 そのせいで、その子のお父さんやお母さんが、男子達の家にあやまりに行ったらしいです。
 それで、かはわかりませんが、その時のケンカのせいであの子は病院に行って、今日は休みだって話でした。
 私はそれを聞いて、もしかして、と思いました。
 もしかして、と思って、つい持ってきてしまってた、ポケットの中のキーホルダーの片割れをぎゅっとにぎりしめました。にぎりしめて、なんだかとても気持ちが暖かくなりました。
 そして、あの子がいない机を見ると、何故か胸がとても切なくなりました。
 わたしは、ただ切なさを感じながら、その子のいない机をずっと見てしまいました。

 次の次の日。
 わたしはその日、教室当番で、いつもより早く学校に行きました。
 朝も早かったし、それにその日は大雨だったから、お父さんが会社に行く前にわたしを車で学校まで送ってくれました。
 でも、そのせいで、とても早く学校に着いてしまって、教室には誰もいません。同じ日に教室当番だった子も来てませんでした。
 わたしはなんだかソンをした気持ちで、でもひまだったから黒板をキレイにしたり、当番の所に名前を書いたりして、時間をつぶしてました。
 わたしがそうしてると、教室のドアが開いてびっくりしました。
 まだ、みんなが来るには早すぎる時間だったからです。
 わたしがドアを見ると、あのちょっと怖い感じの子が、なんだかわたしより驚いた顔をして立ってました。
 わたしは驚いたままそれでも「おはよう」っていうと、その子もちょっとぶっきらぼうに「……おはよ」とぼそぼそと返してくれました。
 わたしはその子が自分の手を後ろにしてるのを見て、「どうしたの?」って聞くと、その子はちょっと怒ったみたいに「なんでもいいだろ」ってらんぼうに言って、サッサと自分の席に着いてしまいました。
 わたしはいきなりちょっと怒られたみたいに感じて、嫌などきどきを胸に感じて、だまってしまいました。席に着いたその子も、ただぼうって窓の外をながめてました。
 わたしはだまって、でもやることがないから教卓に入ってる、ずっとまえのじゅぎょうで使ったプリントとかをとりだして、見てると、ふいにその男子が「はぁ~、もういいや」とかちょっと大きめな声を出して席から立ち上がりました。
 その子の席は、教室の後ろの方にあって、わたしがその時いた教卓からはきょりがありました。でも、立ち上がったその子は、早足でこっちへ歩いて、あっという間にわたしの前に来ました。
 いきなりこっちに来たその子にわたしがドキドキしていると、その子は自分の頭をらんぼうにかきむしって、「ん」っていつかのように何かをわたしに差し出してきました。
 その子が持ってたのは、小さな紙の包みでした。ピンク色の水玉がらの紙で出来てて、とっても可愛くて、中に何かが入っているのが分かります。
 わたしが「なに?」って聞いても、その子はただ「ん」っていうだけで、その度に紙の包みがわたしの顔に近づいてきます。
 わたしにくれるらしいことが分かって、わたしはその包みを受け取りました。
「わたしに? 開けていいの?」っていうと、その子はただだまってうなずいて、わたしはなんだろうってちょっとワクワクしました。
 包みの中身は、キーホルダーでした。
 でも、お爺ちゃんがくれたあのダサいキーホルダーじゃありませんでした。
 それより、ずっとキレイで可愛い感じの、女の子向けな金色のキーホルダーでした。
 わたしがどうしてこれをこの子が渡してきたのか分からないでいると、その子は「見つからなかった」とだけ言いました。
 「なにが? どういう意味?」とわたしがまた聞くと、その子は「あのキーホルダーと同じの。どこにもなかった」とたぶん、今までで一番多く話してくれました。
 わたしはそれを聞いて、つい「だってアレ、病院の売店だもん。買ったの」っていうと、その子は、「マジでか」ってちょっと疲れたみたいに言いました。
 その言葉とかたいど、それに「わかるわけねぇ……」なんてつぶやいた顔がおかしくて、ついわたしは笑ってしまいました。
 わたしが笑ってると、その子はちょっとリラックスしたみたいに「アレの代わりにはならねぇけど、やるよ、ソレ」って言ってきました。
 わたしはどうしてかなんだか年上の人と話してるみたいな気持ちになって、なんだか余計にドキドキしました。
 わたしがどう答えていいのか迷ってると、その子はかんちがいしたみたいで、「んじゃさ、交換しようぜ」って今度はまるで年下の男の子のようにイタズラっぽく言ってきて、わたしはまたドキドキします。
 わたしがそれでもだまってるとその子は「あれ、もってるか。あの青いヤツ」って言ってきて、わたしはその時も持ってた青いハートの片方を、ギクシャクと取り出しました。
 その子はいつかのわたしのようにてのひらを差し出してきて、待っています。わたしは青いハートの欠片をとても熱く感じながら、その子のてのひらの上に置きました。
 その子は「サンキュ」って言って、そのまま直ぐに教卓からはなれました。わたしはその子に「どうして?」って色々な意味を込めて聞きました。
 その子は「大事だったんだろ? コレ」と言って振り返り、それから指先でつまんだ青いハートの欠片を見せてきました。
「わかるから、そういうの」とその男子は言ってニコリと笑いました。
 その時、その男子はとても大人びたような顔をしてました。
 そう言われて笑顔を向けられたわたしは、その子にとっても、なんていうか、その……ときめいてしまいました。

 それからのことを簡単に書きます。
 結局、赤い方のハートの欠片やキーホルダーチェーンは見つかりませんでした。
 あの朝の後、その子のことをわたしは意識しすぎて、結局あまり話す事も出来ませんでした。
 学年が変わってクラスも別になって、それに中学校でも別々になってしまって、その子と多く話したのは、あの雨の日の朝、あれだけのことでした
 その男子が陸上部で県大会準優勝した、なんて地元誌の記事を中学二年生の時に見て、わたしは温かい気持ちと、切ない気持ちを一緒に感じました。
 小さな小さな記事の写真には、成長したあの男子が、でもあの日に見た顔とどこか似た笑顔を浮かべているのを見て、思いました。
 あの七月の始め辺り日、まだ小学生だったわたしに笑いかけてくれたあの男子にときめいたこと。
 そして、あのキーホルダーは今もちゃんと大事にしてあることを。
 今もまだ、机の中、傷が付かないように大切に置いてある、あのキーホルダーを見てさわると、お爺ちゃんに「ごめんね」っていう気持ちと、あの男子の事を思い出します。

 まだわたしが小学校四年生だった時の、ときめいた、もしかしたら淡い恋のようなものを抱いたのかもしれない時の話でした。