小説コンテストサイト『時空モノガタリ』様に短編『”すまーと”なる鬼退治』を投稿させていただきました。

コンテスト、というかサイトの存在を知って即書いた短編です。だからそういうのを止めなさいよ、って感じですね。悪癖極まりねぇ。

短編なのであらすじがメインストーリーみたいなものとも言えますし、暇なときにでもドゾー。

―――――――――――――以下、本文―――――――――――――――――

今回、童子様が欲されたのはとおい飛騨の地で愛飲されているらしい日本酒であった。
いかな酒にお詳しい童子様も、この地よりまるで空に達さんほど遠い地である飛騨のことは知らぬご様子であり、その欲されておられる酒のこともよくご存じではないご様子。
だが、呑みたい。
そう仰せつかれば、童子様の一番の子分たるこの浦はたとえ火の中水の中、喜んで身を投じようというもの。
無論、とおいとおい飛騨の地であろうが問題にならぬ。直ぐさま飛んでいくに決まっておる。
そうして、この浦は旅に出たのだ。
むろん、童子様たっての願いである飛騨の地の銘酒を手に入れるためよ。
長旅であった。
それはそれはとてもではないが一晩では語り尽くせぬ、いやさ、おそらく三日三晩、寝ずに語っても最後まで語ることは敵わぬ長旅よ。
何しろ、まだ終わっておらぬのだ。どうして語り尽くすことなど出来ようか。
うむ、じゃが軽くさわりだけでも聞かせてしんぜよう。
あれは童子様が座に君臨し、いやしくもこの浦も暮らしておる御山から下って直ぐのことであった。
ふと道に白く、こう、なんじゃろなぁ。ふわふわとしとるものが生えておった。
どうにも面妖であり、その叡智、五里に及ぶとまでうわたわれたこの浦とて、しらぬものはしらぬ。
道を行く村人を脅しつけてでも尋ねてみると、それはたんぽぽなる珍奇な植物であると言うではないか。
なるほど、これがそうであるか、とこの浦、納得した次第よ。
おぬしもたんぽぽのことはよう知らぬであろう。初耳であるとみた。
ほう、なんと! おぬし、たんぽぽを知っておるのか!?
これは賢者に出くわしたものよ。
おそらくその歳で女性経験が無いのであろう。そう“ねっと”に書いておった。魔法が使えるのであろう?
いやはや、素晴らしきかな“ねっと社会”。
ん? なに?
おお、卓見であるな。そう、この調子で旅は続くのだ。
そうさな、出発しておおよそ半年。旅路の全行程のおおよそ三十六分の一は踏破したわ。
ほれ、童子様はもちろん、この浦とて不老長寿。何千年生きたかも知らぬほど、もう生き続けておる故な。
ん?
むろん、この浦、童子様のおわす御山から下るのは初めてである。
いや、とおい昔、それこそ飛騨に至るほどの昔に降りたこともある気がするのう。
う~む……。忘れた!
何しろ、御山に“ひかりかいせん”が繋がって外に出る必要が無くなってな。
普段はAmaz●nで買い物しておる故、御山を下ることはおろか、下界に降りることもまずないのじゃ。
まっこと、便利な世の中よ。“くりっく”一つで欲しい物が手に入るとは、お釈迦様でもこのような便利な世が来るとは存じ上げないであろうよ。

な、なんと……!?
Amaz●nで酒を買うことも出来る、じゃと!?
そこまで便利か、“ねっと社会”!
あ、いや、そうじゃ。試したことはあるのじゃった。
じゃが、なんだ、あれよあれ、年齢確認、か。
アレがどうにも上手くいかぬのだ。
正直に数千年生きておる、と応えようとしても“えらー”なる表示になってしまってな。進まんのだ。
これは恐らく“こまーしゃる”のための“ぺーじ”なのじゃろうと高をくくっておったのだ。
ん、ほ~う……。ははぁ、なるほど! そういうことか!
正直者は馬鹿を見る、というあれであるな!
この浦、馬鹿を見たわい! がはははは!
では早速、御山に戻って“詐称”とやらを試してみるわい。
ありがとうの、魔法使い殿。
ん、なんじゃ、まだ何か……。
は? 飛騨の銘酒がこの辺りでも?
馬鹿を申せ! この浦を謀るつもりか!
“こんびに”じゃと!? ぬかせ! そのようなものがあってたまるものかよ!
なに!? 主が探してくるじゃと!?
ぬかしおる! やってみい!
もし謀りなら、この浦、いかな菩薩の御使いのごとき慈悲の持ち主とうたわれる心の広さをもっているとて、容赦出来ぬ!
その舌、引っこ抜く!
ん、なに!?
馬鹿な馬鹿な!
すぐそこのそれは厠であろう。ここに至るまで幾度も見たわ!
”ふぁみま”? なにを言うておる! そのような小さき店があるものか!
よしんばそれが商いのための……おい! まだ話は……!
あんの男ぉ! この浦を誰だと思っておる! もし酒がなければ八つ裂きにしてくれるわ!
って、なに! もう会計が済んだ、だと!?
しかし、そ、その手に持っておるのは!?
ソレが飛騨の……!? 貸してみよ!
こ、これは、たしかに酒、であるな……。
う、疑ってすまなんだ。なるほど、真実であったか。
じゃが、この酒……。
“鬼ころし”、か。
…………。
まっこと無念じゃが、童子様には呑ませられんの。
諦めてもらうしかないわい。
じゃ、帰るわい。色々、ありがとうな。

こうして、この辺りを長い間うろついていた鬼は住処に戻っていきましたとさ。
めでたしめでたし。